薬剤師国家試験のあり方に関する基本方針
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薬剤師国家試験のあり方に関する基本方針
平成28 年2月4日
医道審議会薬剤師分科会
薬剤師国家試験制度改善検討部会
1.はじめに
臨床に係る実践的な能力を有する薬剤師を輩出すべく、平成18 年度から新たな薬学教育課程として6年制課程が導入されたことを受けて、平成22 年1月に、医道審議会薬剤師分科会において、薬剤師国家試験のあり方に関する基本方針(「新薬剤師国家試験について」。以下「基本方針」という。)を取りまとめた。
平成24 年3月以降、基本方針に基づき、6年制課程に対応した薬剤師国家試験が過去4回実施されてきたところである。
また、医療全体を取り巻く情勢の変化等を踏まえ、薬学教育モデル・コアカリキュラム1について、6年卒業時に必要とされる資質として「薬剤師として求められる基本的資質」が新たに定められる等の改訂が、平成25 年12 月に行われた(以下「改訂モデル・コアカリキュラム」という。)。この改訂モデル・コアカリキュラムは、平成27 年度の入学生から適用されており、6年制課程で修得した知識、技能及び態度に関し、これからの医療の担い手たる薬剤師として求められる資質を的確に確認するために、薬剤師国家試験についても、改訂モデル・コアカリキュラムに対応したものとすることが必要となっている。
そのため、医道審議会薬剤師分科会薬剤師国家試験制度改善検討部会(以下「制度改善検討部会」という。)において、7回にわたり検討を重ねた結果、今般、薬剤師国家試験の改善に関する基本的な方向性等についての意見を取りまとめ、基本方針を策定したので、ここに報告する。
2.見直しにあたっての基本的な考え方
急速な高齢化が進む中で、団塊の世代が後期高齢者(75 歳以上)になる2025年を目途に、地域の実情に応じて高齢者が可能な限り住み慣れた地域で自分らしい暮らしを最後まで続けることができるよう、医療・介護等のサービスが包括的に提供される地域包括ケアシステムの構築が推進されている。その中で、地域住民による主体的な健康の維持・増進を積極的に支援する健康サポートや、在宅医療も含めた地域包括ケアシステムにおける多職種連携など、薬剤師が専門職として果たすべき役割は大きくなっている。また、医療機関においても、チーム医療の担い手として、多職種と連携しつつ、薬物療法や医療安全に積極的に参画し、医療の質的向上に貢献することがこれまで以上に求められている。
このような状況の中、多様かつ複雑な医療の実際において、薬剤師が医療の担い手として真に役割を果たすには、高い倫理観や医療人としての教養を有するとともに、時として未知の事象・事案に対して、6年制課程で修得した知識・技能・態度等を最大限発揮して、資格者として責任ある行動をとることが求められる。
このため、薬剤師国家試験を通じて、薬剤師資格を有する者として必要とされる倫理観・使命感や基本的な知識等のほか、薬学の全領域に及ぶ一般的な理論や、医療を中心とした実践の場において必要とされる知識・技能・態度等を確認する必要がある。また、薬学に関する基本的な知識等と実践に関する総合的能力が体系的に修得されているか否かを確認することも重要である。
一方で、6年制課程導入後の薬剤師国家試験の実施状況について見ると、年度によってその合格率に大幅な変動が生じており、このような状況が継続することは、「薬学の正規の6年制課程を修め卒業したという一定のレベルを有している者」が受験する資格試験において、決して望ましいとは言えない。この原因の一つとして、6年制課程に対応した薬剤師国家試験の実施回数が少なく、現状では受験者の学修レベルと問題の難易が合致していないことが考えられた。
また、個々の問題の内容については、概ね適切な出題がされているが、一方で一部に難度の高い問題や、標準的な内容とはかけ離れた例外的事項・副次的事項を問う問題が散見されている。
本部会では、上記の薬剤師国家試験の実施状況や、薬学教育モデル・コアカリキュラムの改訂の内容を踏まえ、平成22 年に医道審議会薬剤師分科会で取りまとめた基本方針の内容をベースに、基本方針に挙げられた項目に沿って、必要な改善事項の検討を行った。
3.具体的な事項について
(1)試験科目について
○ 現行の薬剤師国家試験においては、問題を必須問題及び一般問題に区分(一般問題にあっては、薬学理論問題及び薬学実践問題に更に区分)した上で、科目を、「物理・化学・生物」、「衛生」、「薬理」、「薬剤」、「病態・薬物治療」、「法規・制度・倫理」、「実務」としている。
改訂モデル・コアカリキュラムにおいて、「薬理」と「病態・薬物治療」について、器官別に一連の項目としてまとめられたところであるが、大学におけるこれらの科目の教育方法について、当分の間見極める必要が
あることから、現時点では試験科目を統合せず、現行どおりとする。
ただし、「薬理」と「病態・薬物治療」の出題にあたっては、疾病に伴う症状等の患者情報を解析し、最適な治療を実施するための基本的事項が修得できているか確認できるよう、例えば一つの事例に対して「薬理」と「病態・薬物治療」それぞれから出題するという形が望ましい。
○ 現行では、必須問題は、医療の担い手である薬剤師として特に必要不可欠な基本的資質を確認する問題として、一般問題は、薬剤師が直面する一般的課題を解釈・解決するための資質を確認する問題として出題している。
○ 本部会において、「物理・化学・生物」については、実務実習前の薬学共用試験CBT2で基礎力を担保し、薬剤師国家試験においては、一般問題でのみ出題すればよいのではないか、との意見もあり、この点について議論した。
○ しかしながら、本部会としては、薬剤師資格を持たない薬学生が実務実習を行うための一定レベルの知識を確認する薬学共用試験CBT と、薬剤師として具備しなければならない基本的な知識、技能及び態度を評価する薬剤師国家試験とでは、試験としての性質が異なること、また、薬学共用試験CBT では出題された問題を公表しないこととしていること等から、薬剤師国家試験で評価すべき基本的な資質を薬学共用試験CBT で代用することについては、今後の検討課題とする。
また、「物理・化学・生物」を必須問題で出題しないことにより、薬剤師としての基本的な資質として必要ないといった誤った認識が広がる可能性や、医療の担い手である薬剤師として特に必要不可欠な基本的資質を確保できなくなる可能性がある。
したがって、現行どおり、「物理・化学・生物」については必須問題でも出題することとする。
(2)出題基準について
○ 各科目の出題項目については、現行の出題基準では、モデル・コアカリキュラムを基本としていることから、改訂モデル・コアカリキュラムに合わせて見直しを行うこととする。
○ 出題基準の体系については、現行どおりとし、改訂モデル・コアカリキュラムの項目を基本として「大項目」「中項目」「小項目」とし、「小項目」については具体例を例示することとする。
○ 出題内容については、本部会において、特に「物理・化学・生物」に関して、これから薬剤師となる者として基本的な資質があるかどうかを確認するにふさわしい問題となっていないとの意見や、実際に治療に用いられる医薬品に関連した事項や医療現場で利用されている分析法に関する事項といった、臨床の現場と関係するような事項を積極的に出題する必要がある、との意見があった。
これらの意見や、臨床に係る実践的な能力を有する薬剤師を輩出するために薬学教育課程が6年となった経緯も踏まえると、「物理・化学・生物」を含めた全ての科目で、薬剤師国家試験として適切な出題がなされるよう、現行の出題基準の小項目の例示について、記載項目の精査や記載方法の工夫が必要である。また、出題の際も、臨床との関連を意識するべきである。
(3)試験出題形式及び解答形式について
○ 現行どおり、試験は、正答肢を選択する問題(一問一答形式、正答の設問肢が一つではない形式又は解答肢の全ての組合せの中から正答肢を選択する形式)を基本とし、特に必須問題の場合にあっては、設問の正誤を一問一答形式で問うことを基本とする。
○ 実務に即した技能・態度等を確認するための手段として、今後も写真や画像、イラスト等を積極的に活用することとする。
○ 総合的な問題解決能力を評価する観点から、一つの事例に対し複数の問題を出題すること(いわゆる「連問」)が有効であると考えられるが、本部会において、現行の複合問題3について、設問間の関連性が弱く、単問としても出題可能な問題も散見されるとの意見や、単に知識を記憶していれば解ける問題ではなく、課題を解釈・解決するための資質を確認する問題を出題すべきとの意見があった。
これらの意見を踏まえ、一般問題(薬学理論問題)において、同一科目内での連問や複数の科目を組み合わせた連問を出題することや、「実務」以外の複数の科目を組み合わせた複合問題(例えば、「薬理」と「薬剤」を組み合わせる場合には、「薬理」「薬剤」と「実務」2問の計4問が連続する問題となる)の出題を増やす等の工夫が必要である。
○ 薬剤師には、医療人としての高い倫理観と使命感が求められることにかんがみ、薬剤師として選択すべきでない選択肢(いわゆる「禁忌肢」)を含む問題について、導入することとする。
禁忌肢の導入にあたっては、公衆衛生に甚大な被害を及ぼすような内容、倫理的に誤った内容、患者に対して重大な障害を与える危険性のある内容、法律に抵触する内容等、誤った知識を持った受験者を識別するという観点から作問することとする。
ただし、偶発的な要素で不合格とならないよう出題数や問題の質に配慮する必要がある。
(4)試験問題数について
○ 受験者の負担等の観点から、現行どおり、各科目の出題数や「必須問題」、「一般問題(薬学理論問題)」、「一般問題(薬学実践問題)」の出題数については別紙のとおりとし、2日間で試験を行うこととする。
(5)合格基準について
○ 絶対基準である得点率に基づく現行の合格基準には、受験者の学修レベルや問題の難易に関する少しの振幅で合格者数が大きく変動してしまうという問題が内包されていると考えられる。
○ また、現行の合格基準では、これから薬剤師になる者として特に必要不可欠な基本的資質を確認するとともに、薬学の特定の領域に偏ることなく、各領域について一定水準以上の知識及び技能等が備わっていることを確認する目的として、必要最低点数を設けている。
しかし、受験者の学修レベルと問題の難易が合致していない中で、特定の科目のみで基準を満たさないことのみをもって、薬剤師として基本的な資質がないとは必ずしも言い切ることはできないと考えられるため、合格基準を以下のとおり見直すこととする。
・ 総得点については、これまでの得点率による絶対基準を見直し、平均点と標準偏差を用いた相対基準により合格者を決定する。その際、これまでの絶対基準を用いた合格基準でなくなることによる教育の現
場や受験生の混乱を回避するため、当分の間、全問題への配点の65%以上であり、他の基準を満たしている受験者は少なくとも合格となるよう合格基準を設定する。
・ 必須問題全体については、これまでどおり全問題への配点の70%以上であることとする。また、必須問題を構成する各科目の得点については、それぞれ配点の30%以上であることとする。
一般問題については、構成する各科目の得点に関する基準を廃止する。
・ 難易の補正については、現行どおり正答率及び識別指数の低い問題について、得点を調整する。
<新たな合格基準>
以下のすべてを満たすこと。
① 問題の難易を補正して得た総得点について、平均点と標準偏差を用いた相対基準により設定した得点以上であること
② 必須問題について、全問題への配点の70%以上で、かつ、構成する各科目の得点がそれぞれ配点の30%以上であること
○ 合格基準の見直し後にあっても、合格基準の如何にかかわらず、薬剤師として具有するべき知識・技能等を有している者を適切に評価することを、今後も堅持するべきである。
また、薬剤師試験委員会における薬剤師国家試験の作問にあたっては、臨床に係る実践的な能力をはじめ、これから薬剤師となる者として基本的な資質があるかどうかを確認する出題となるよう、なお一層の工夫をするべきである。
(6)過去に出題された試験問題(既出問題)の取扱いについて
○ 既出問題のうち、薬剤師に必要な資質を的確に確認することが可能な良質な問題として一定の評価が与えられた問題を活用することとし、その割合は、20%程度とする。
ただし、既出問題が十分に蓄積されるまでの間に活用する割合は、この限りではない。既出問題の活用にあたっては、単なる正答の暗記による解答が行われないよう、問題の趣旨が変わらない範囲で設問及び解答肢などを工夫することとする。
4.適用時期について
改訂モデル・コアカリキュラムについては、平成27 年度の薬学部入学生から適用されているところ、当該学生が初めて受験する第106 回薬剤師国家試験(平成32 年度実施)から本基本方針を適用することとする。ただし、合格基準については、第101 回(平成27 年度実施)から適用することとする。
禁忌肢については、先行して導入が必要と考えられるものの、適切な作問の検討のための準備期間を設けるため、第104 回薬剤師国家試験(平成30 年度実施)から導入することとする。
なお、速やかに着手が可能と考えられる一般問題(薬学理論問題)における連問や、「実務」以外の複数の科目を組み合わせた複合問題の出題については、早急に対応することが望ましい。
本基本方針については、今後の試験内容や結果、モデル・コアカリキュラムの改訂の状況等を踏まえて、定期的に見直しを検討する。
5.おわりに
本部会では、6年制課程導入後の薬剤師国家試験の内容や結果等を踏まえて、薬剤師国家試験のあり方について約1年間検討を重ねてきた。薬剤師を取り巻く環境は常に変化しており、真に国民の期待に応え得る薬剤師として適切な医療を提供していくためには、卒後も生涯にわたって自己研鑽を続けていくことが重要である。このため、各薬科大学・薬学部において生涯学習や自己研鑽の重要性について十分に教育するとともに、薬剤師の生涯学習の機会が確保されるよう、国、各職能団体及び各薬科大学・薬学部等が、積極的に取り組むことが重要である。また、各薬科大学・薬学部においては、6年間の薬学教育により、学生が薬剤師として求められる基本的な資質を修得できるよう、教育内容の充実に引き続き取り組むことを要望する。
薬剤師国家試験の科目、問題区分、出題数